青山祐の書いた暗黒小説を公開しています。

青山祐の暗黒小説
管理人の本棚にある本を、少しずつレビューしていきます。
なお、星はおすすめ度で十段階評価になっています。

デビル・ボード / 狂気太郎
庵堂三兄弟の聖職 / 真藤順丈
鼻 / 曽根圭介
The Book / 乙一
新世界より 上 下 / 貴志祐介
死にぞこないの青 / 乙一
クチュクチュバーン / 吉村萬壱
ZOO1 ZOO2 / 乙一
すべてがFになる / 森博嗣
二重螺旋の悪魔 上 下 / 梅原克文
クリムゾンの迷宮 / 貴志祐介
五分後の世界 / 村上龍
箱の中の天国と地獄 / 矢野龍王
ΑΩ 超空想科学怪忌憚 / 小林泰三

デビル・ボード  
狂気太郎
★★★★★★★★★
 狂気太郎とかいう人の電子書籍。

 いや、もう根っからのファンなんで素晴らしいとしか書けません。でもそれを抜きにしても、この作品が群を抜いているのは間違いないでしょう。

 悪魔のボードゲーム。それ以上の説明は不要。とにかく、興味を持った方はご覧ください。バトルロワイアル以来のヒャッハーッ感が得られますよ。
庵堂三兄弟の聖職
真藤順丈
★★★★★
 近いうちに書評を書くと言っておきながらけっこう経ってしまいました。今さらながら書いてみます。

 第十五回日本ホラー小説大賞、大賞受賞作。という触れ込みについ買ってしまった本です。ですが正直言って、あまり好きな作品ではありません。

 文章は上手い、上手いんですが、作者の本質が文章に込められていないような気がするのです。

 この作品では狂気を描こうとしていますが、作者自身は限りなく正気であり常識人であり普遍的な面白さというものを計算しつくした冷徹な視点を持って書きおろしている、そんな気がするのです。

 一言で言えば危うさがない。

 正気の人間から狂気というものはこうだと言われても、ネジの飛んでいる人間からすればふうんで終わってしまう。いや私のネジが飛んでいるわけじゃないですよ。でもそんな印象を受けました。

 一般受けはいいかもしれません。面白いと思える要素はいくつもある。ただどれも圧倒的ではない。

 最後の三、二「ウギャアアアアア」にはつい笑ってしまったぐらいなので、いつかとんでもない作品を描き出してくれるかもしれないという期待は今のところありません。

 こういうとアレですが、長編賞の粘膜人間のほうが面白かったです。

曽根圭介
★★★★★★★★★
  日本ホラー小説大賞短編賞受賞作です。
 
  ただし著者は同時期に江戸川乱歩賞を受賞し、先にミステリー作家としてデビューしています。こちらはホラー作家としてのデビュー作という位置づけですが、同時受賞もさもありなんと頷かざるを得ない、作家としての力量を見せつけられた作品です。

『収録作品一覧』

・暴落
・受難
・鼻(日本ホラー小説大賞短編賞受賞作)

  一作ずつ語るのは、未読の方の楽しみを奪いかねないので全体的な印象を語ろうかと思います。
 
  基本的な文体は平凡ともいえる特徴のない書き方なのですが、だからこそ読みやすい。余計な表現などまったくないストレートな一文が頭に突き刺さってきます。シンプルイズベストを突き詰めたような完成された文体です。
 
  そして驚くべきは話にまったく無駄がないこと。話の流れを一度も妨げることなく、着地点目がけてまっすぐ向かっている。どう見ても短編向きの作家なのに、長編で江戸川乱歩賞を射止めていることもあって、まだまだ底が知れません。
 
  話の組み立て方から作者の癖というか性質のようなものがうかがえるのですが、この作者はミステリー型だと思いました。謎が徐々に明らかになり、かつ話の展開が読書の予想を裏切る。きっちりと計算されたうえで書かれているので、作品全体に作者の意図が血となって通っています。
 
  しかも、ラストの終わり方が上手い。必要な情報はちゃんと提示しながら、切るところは切り、読後の余韻をしっかりと残しています。
 
  大抵、作品を読んだあと、ここはこうなっていたほうがよかった、と読者特有の勝手な言い草が頭を過ぎるのですが、今作には文句の付けようがありません。新人作家とは思えない熟達した筆致で、この先どこまで到達するのか楽しみになりました。
 
  SF的発想とミステリーの構成、そして淡々としたホラー描写。自分の理想としたい作品です。
The Book
乙一
★★★★★★★★
 『ジョジョの奇妙な冒険』第四部のアナザーストーリー。

 杜王町には特殊な能力を持つ『スタンド使い』が数多く住んでいる。 彼らは互いに不思議な引力によって惹かれ合い、いくつものドラマが生まれる。 これもその一つだ。

 いやあ面白かったです。 ある意味、登場人物全員が主人公とも言える作品でした。 まあジョジョは大体そうなんですが。

 ただやはり原作が少年誌であるためか、 若い読者層を狙っているらしく、 漢字が開かれまくっていました。 しかし少年少女向けである『青い鳥文庫』以上の開きっぷりなので、 いくら今の子供がゆとり世代であるにしても、これは読みにくくありませんか、集英社さん。

 とまあ出版社叩きは置いといて、 本書の内容についてネタばれしない程度に触れてみることにします。

 タイトルである『The Book』の名のとおり、今作には本を使うスタンド使いが出てきます。 作中では岸辺露伴の『ヘブンズ・ドアー』と似たような性質であると書かれていますが、 個人的にはジョジョ第三部の、ボインゴのスタンドをイメージしました。 ええ、未来が書かれているアレです。 まあこれには未来ではなく過……なんだ君たちはっ。

 私の部屋に二人の男が入ってきた。 男の一人が指先で不思議な模様を描く。 残像となった軌跡が宙に漫画のキャラクターのようなものを浮かび上がらせた。 それを目にした瞬間、私の膝から力が抜けた。床に倒れこむ。 顔の隣に伸びた私の腕が紙のようにほどけるのが見え……。

「危ないところだったな康一君」
「ええ、先生のおかげで助かりました」
「これ以上、余計なことを言えないように書き込んでおこう」

 ――『The Book』の内容を書くことはできない――

 えっと何を書こうとしてたんでしたっけ。 そうそう、『The Book』の……あれっ、内容が思い出せないな……。 とっ、とにかく、ジョジョ好きの方にも、乙一好きの方にもおすすめできる作品です!
新世界より  
貴志祐介
上 ★★★★★★★★★★
下 ★★★★★★★
 著者三年ぶりとなる新作。上下巻合わせて千ページを超える長編です。ファンはずっとこの時を待っていた!

 今よりずっと先、千年後の日本。そこで子供たちは徹底的に管理されていた。村をすっぽりと囲っている八丁標(はっちょうじめ)から外に出てはならない。閉鎖的な世界で疑問を感じながらも成長していく子供たち。村には電気やガスなどの文明機器はほとんど存在しない。そんなものはもう必要なかった。科学にとって変わる力。それは――呪力。

 読み終えたとき、世界は色を変えていました。人間を人間たらしめているもの、それがテーマとなっているのです。生きた人間が描かれ、喜びや悲しみ、そして愛が、痛いほどの愛がありました。

 上巻は本当に素晴らしかったです。新世界が圧倒的なスケールで迫ってくるため、ある種の悦びすら感じます。

 下巻は蛇足が多かったこと。また逆に説明しきれていない部分があり、それが非常に残念でした。しかし物語としての面白さはダントツです。これぞ作家の理想と言ってもいい。

 特にライトノベルしか読まない今の若い世代に読んで欲しい。これこそ本物のファンタジー。上下巻合わせて四千円という値段に尻込みしている場合ではありません。大作RPGと同じ、いやそれ以上の達成感が得られるのだから。新作のゲームを一本買うと思えば安いもんです。
死にぞこないの青
乙一
★★★★★★
 ええっと以前約束していたような気がするのでこの本について書いてみます。

 大した理由もなくクラスの中で孤立させられてしまったマサオという少年が、なんだか色々と大変なことになっていくお話です。

 正直に言いますと、中盤まではものすごく退屈でした。しかしこの退屈はゆっくりと物語を積み上げている段階なので、不要かと言われればそうではありません。

 たとえばそこにナイフがあったからという理由で人を刺すだけの話ならば面白くないわけで、人を刺すに至るまでの心理をしっかりと段階を追って書くからこそ面白いのです。とはいえそれはものすごく難しいことなのですが。

 終盤、積み上げたものを崩すときの勢いには途轍もないものがありました。

 自分が子供の頃に悩んでいた数々のこと。今考えるとつまらないことで悩んでいたと思います。しかしそれは大人の物差しで測るようになったから大したことないと思うだけで、その頃の自分にしてみれば人生を揺るがす大事件だったはずです。

 忘却こそが人間の美徳であり罪でもあります。今は失ってしまった子供の頃の感受性。その一端に触れたいと思うのならばこの本を読むといいでしょう。
クチュクチュバーン
吉村萬壱
★★★★★★★
  第92回文学界新人賞受賞作。この作品を受賞作に選んだことは審査員の方にとってさぞかし冒険だったことでしょう。しかし、後に吉村氏が芥川賞を受賞されたことからもそれが英断だったことは間違いありません。純文学というジャンルの垣根を広げた問題作です。

  ある日を境に地球全体が進化における自然淘汰を早回しにしたような世界へと変化します。理由なく人類は昆虫や動物と同化し、または無機物との融合を果たし、ついには常識など無視した異形へと変貌します。理性は失われ、狂気に囚われた人々の行き着く先は殺し合いでした。食欲、性欲、快楽、あらゆる欲望のために人類は殺し合い、死の渦のなかでは愛さえも呑み込まれてしまいました。人類、そして世界の行き着く先には何があるのか。あるいは、何もないのでしょうか。

  奇想を突き詰めた幻想文学の極致。文学に理由付けなど必要なく、ただ書きたいものを書いた、そんな勢いすら感じさせる作品です。まるで若かりし日の筒井康孝氏のようなブラックユーモアに溢れており、氏の作品が好きな方は大いに楽しめると思います。

  ただ今作とともに収められた「人間離れ」が同じようなスラップスティック的ノリのため、ハイテンションのまま続いた全編を読み通すにはいささか食傷気味でした。まったく違うテーマの作品を抱き合わせて、作家としての幅の広さを見せておいたほうが良かったかもしれません。いえ、もちろん余計なお世話なのですが。  
ZOO1 ZOO2
乙一
★★★★★★★★
 この二冊は天才作家、乙一の短編集です。天才と呼ばれる作家は数多くいますが、有象無象に存在する冠詞としての天才ではなく、この作家は紛れもない天才です。

 まずは収録作品のご案内です。

  ZOO1 収録作品

・カザリとヨーコ
・SEVEN ROOMS
・SO-far そ・ふぁー
・陽だまりの詩
・ZOO

  ZOO2 収録作品

・血液を探せ
・冷たい森の白い家
・Closet
・神の言葉
・落ちる飛行機の中で
・むかし夕日の公園で

  どれも優れた作品なのですが、作家というのはいつもすべての作品において最高傑作を書けるものではありません。

  誰だったか忘れたのですが、昔、有名な彫刻家が「彫り始める前からすでに石自身が彫るべき形を持っている。私はその形に沿って彫っているに過ぎない」と言っています。もしかすると若干、意味が違うかもしれませんが……。

  ストーリーも同じことで、書かれる前から自分の形を持っています。その形によって、各々の到達点は違ってくるのです。

  つまり、乙一ほどの優れた作品を書く作家が、最高の波のときに書いた作品、それはもはや常人の域を逸しています。

  なかでも郡を抜いているのが『ZOO1』の『SEVENROOMS』。そして『ZOO2』の『神の言葉』どちらもホラー作品なのですが、その発想は書き手の人格を疑ってしまうほどの逸脱ぶりです。

  この作品を読むためだけに、本を購入したとしても絶対に後悔はしません。

  以降はこの二作に絞って話しますが、他の作品も優れた作品です。一般的な小説の平均を遥かに超えていることは間違いないと、誤解のないように言わせていただきます。

    「SEVEN ROOMS」

  幼い姉弟が拉致、監禁されたのはコンクリートに囲まれた小部屋。食事は毎朝、扉の下の隙間から差し入れられます。犯人は一体何の目的で姉弟を攫ってきたのか。どうすれば脱出できるのか。

  直接的な描写こそないものの、想像するだに恐ろしいシチュエーションホラーの最高傑作。分からないからこそ怖いのです。

  またこの作品は映画化もされています。ZOO1の五作品がすべて収められた映画なのですが、やはり『SEVEN ROOMS』は郡を抜いていました。

  ホラーながらもテーマが存在し、ラストのせつなさが尋常ではありません。身が切り裂かれるほどの痛みを読むものに与えます。

    「神の言葉」

  神の声を持つ少年の話です。その声は生き物の行動を意のままに操ります。

  こんな声を持っていたら、あなたなら何をしますか。自らの望みを叶えるために使うのではありませんか。この作品に出てくる少年も同じです。望みを叶えるために、使ったのです。

  読み終わった瞬間、震えが走りました。怖かったせいではありません。暗い穴の淵から、底知れぬ虚無が垣間見えた、そんな気がしたのです。

  これは絶対に真似のできない作品です。作者の人格を疑う、いえ、半ば狂っていることを確信しています。しかし、だからこそこれほどの面白い作品が書けるのでしょう。

  天才と狂気は紙一重なのかもしれません。  
すべてがFになる
森博嗣
★★★★★★★★
 初めてこの作品を読んだ時は衝撃を受けました。ここまで理系なトリックを使っていいのか、と。

 今作の舞台は孤島の研究施設。この施設には一人の天才工学博士がいます。施設そのものが博士一人のために建てられたといっても過言ではありません。

 そして、探偵役となるのが大学の助教授とその教え子。

 彼らが博士の部屋へ入ろうとした瞬間、事件は始まります。ウェディングドレスを着た女の死体が部屋から進み出てきたのです。

 部屋の中は誰もいない密室。唯一、コンピュータのディスプレイに残されていたのは『すべてがFになる』という言葉だけ……。

 プログラムをやっている人なら、もうタイトルだけで分かってしまうかもしれません。しかし、それをミステリのトリックと繋げた発想が素晴らしい。たとえ、この発想を得たとしてもこれほど上手くは書けないでしょう。プログラミングの初歩的な知識とはいえ、ここまで興味を引き立てて読ませるのは並大抵ではありません。

 もちろん今作は文系の人でも面白く読めるのですが、理系の人だともうニヤニヤしながら読むことになると思います。

 余談ですが、作者である森博嗣は今作がデビュー作であり、第一回メフィスト賞を受賞しています。

 しかしメフィスト賞そのものが、森博嗣のために用意されたというのだから驚きです。

 彼はこのときすでに、後に刊行される作品を三作も書き上げていました。『すべてがFになる』は、この時点ではプロットでしかなかったのです。

 そしてそのプロットを聞いた編集者が「これをデビュー作にしましょう」と決めたそうです。つまりプロットだけでそう思わせるほど、ずば抜けた発想と完璧なストーリーを持っていたわけです。

 以降、森博嗣は信じられないほどの速筆で次々と作品を発表しています。一日に原稿用紙八十枚書けるという話も聞きます。それも大学の助教授を続けながらだというのだから信じられません。天才というのは別の次元に住んでいるのかもしれませんね。  
二重螺旋の悪魔  
梅原克文
★★★★★★★★★
 なんという世界観。総枚数1600枚という上下巻にも及ぶ超長編ながら、読み出したら止まらない作品です。

 主人公である深尾直樹は遺伝子監査委員会の調査官。彼はライフテック社で不正な遺伝子操作が行われていないかを調べるためにやってきた。しかし、それは表の顔。人間の遺伝子に封じ込められた悪魔を食い止めるのが本来の目的である。遺伝子監査委員会など実際には存在しない。深尾はC機関と呼ばれる特殊機関に属する工作員なのだ。

 C機関という名前から察する方も多いと思いますが、そう、例のあれです。バイオサイエンス・アクションと銘打って発刊された今作ですが、その名に恥じぬ素晴らしい出来でした。

 まずこの作品で特筆すべきは、とんでもない設定であるにも関わらず、その根底には生物学における裏付けが存在することです。実際、遺伝子のイントロンは人間を構成する役には立っていません。だからこそ、どんな理屈を付けようが構わないのですが、それに最上級の理屈を付けたものが今作であると言えます。

 ライフテック社でのバイオハザードに始まり、その世界観は拡大の一途を辿ります。凄絶なアクションシーンと想像を遙かに超えたストーリー展開。作者の頭の中は一体どうなっているのか。生と死、奇想と論理のすべてがこの作品に収められています。

 しかし、これほどの作品であるにも関わらず、amazonでは中古本が1円で投げ売りされているのです。このままだと日本の文学は終わるかもしれないと感じました。  
クリムゾンの迷宮
貴志祐介
★★★★★★★★★
 突然、見知らぬ土地で眼を覚ました男が持っていたのは、一つの携帯ゲーム機。その画面には『火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された』という文字が……。

 皆さんはゲームブックというものをご存じでしょうか。ストーリーの中に選択肢として分岐があり、読み手がそれを選択し、『〜ページへ移動』という指示に従って読み進めていくものです。ただ読んでいるだけなら「あ、選択間違えたから前のページに戻ろう」ということが出来るのですが、ゲームブックの中の主人公はそういうわけにはいきません。選択ミスによって死んでしまうことは、主人公にとっての『死』なのですから。

 ゲームブックをなぞらえた、死のゲームへと男は放り込まれます。選択を間違えることは許されません。凶暴性を現していく参加者たち。そして食人鬼『グール』。追い詰められていく男の恐怖が克明に綴られています。

 日本ホラー大賞受賞者である著者が書いた、究極のサバイバルホラーがこの一冊です。ゲームでしかありえないような設定を、現実で起こりうるように書ける作家はなかなかいません。そればかりでなく、人間心理の奥深くまで抉る鋭い描写に、恐怖しない人はいないでしょう。

 正直、この人の書く文章は真似出来ないと思っています。綿密な取材と資料の山をもとに、しっかりと世界観を創り上げたうえで書いているからです。そのため、一作一作のクオリティが高く、この作者の作品に『はずれ』はありません。他の作品もいずれ紹介したいと思っていますが、とにかくおすすめです。  
五分後の世界
村上龍
★★★★★★★★
 よく冒険小説などでは、異世界へ行った主人公が戦いに巻き込まれていく、というものがあります。それを徹底したリアリティをもって書き上げたのがこの『五分後の世界』です。

 主人公はチンピラのような中年男。彼はまるでモラトリアムの少年のような心を奥底に秘めています。現実の社会に絶望し、それが原因で荒んだ生活を送っている。でも、本当は優等生になりたかった。そんな人物です。

 現実から五分ずれた世界。そこには男の望んでいた本当の世界があった。生に対するリアリティがそこにはある。彼は現実の世界に帰るのか、それとも五分後の世界で戦い続けるのか。

 実際、今の日本には本当の意味での生はないものとわたしは感じています。食料は豊富にあり飢えることはまずありません。誰かにへつらうことで簡単に報酬が得られます。でも、それは正しいのでしょうか。生きていると言えるのでしょうか。本当はもっと激しい生き方が出来るのでは……。

 そう思っている方におすすめの一冊です。迷ってこそ人間だと思いますよ。  
箱の中の天国と地獄
矢野龍王
★★★★★★★
 これは奇想と論理の組み合わされたサバイバルホラーです。ある施設に閉じ込められた少女の視点で物語は進みます。その目的は仲間とともに施設を出ること。

 もちろんそう簡単に出してくれるはずはありません。各階に仕掛けられた箱を開けることによって次の階への扉が開かれます。ただし、置かれている箱は各階に二つずつ。間違った箱を開けると、高確率で”死”が待っています。

 階を進めていくごとに誰かが箱を開けなければなりません。正解の箱を当てるためのヒントは随所に用意されています。それを見つけ出し推理することが生存への鍵です。

 これほど緊張感のあるゲームを一体どうやって思いつくのでしょう。その発想はなかったわー、とガキ使のように思ってしまいました。クセのある文体で慣れるまで少し時間が掛かるかもしれません。ですが、一度話に入り込んだら抜け出せないこと受け合いです。  
 いきなり言ってしまいますと、これはあるヒーローのオマージュです。

 男ならば誰でも知っているあのヒーロー。でもそのヒーローがどういう原理で空を飛んでいたのか、どうやってビームを出していたのか、なぜ戦闘に時間制限があったのか。子供の頃には分からなかった、あらゆる疑問がSFファンならば楽しくてしょうがないほど、こと細かに説明されています。

 これを作者の悪ふざけと取るかどうかは読者次第ですが、私には非常に楽しめる作品でした。

 とはいえ残虐描写などもありますので、ある程度、そういったものに免疫のある方でないと受け付けないかもしれません。

 しかしこれもまた作者独特のセンスでグロいんだけれども面白い!

 作者のファンならば買って損はないでしょう。